「妻のことで、先生にご相談したいことがあるのですが…」
といってFさん(※1)が私の治療所へ来たのは、二年前の三月のある日のことであった。わたしはこのFさん夫妻を通して、改めて「治療」のなんたるかを考えさせられた印象的な症例である。
だからといって、とりわけ特異な事例であったわけではない。ただ、治療する側、治療される側相互のなにげない心遣いがいかに大切かということを痛感したのであった。
Fさんの奥さん、K子さんは1952年12月生まれで、ミレニアムの2000年で48歳になる。ご主人のTさんと二人暮らしの専業主婦である。
実はご主人が相談に来た2週間前まで、明石支部へ治療に通っていたのだった。
だが、はかばかしい結果は出なかった。そこで病院での検査を勧めたのである。それは、前会長(五味雅吉先生)が常々、
「つづけて十回以上の治療をしても、おもわしくなかったら、ねんのため病院で検査をしてもらったほうがいい」
と言われていたので、そのようにお願いしたのだ。責任逃れでも、いいかげんな対応でもない。腰が痛いといってきた患者さんが、仙腸関節をただしてもやはり腰が痛いと訴える。そこで病院で検査すると癌が発見されたという実例もある。念には念をいれることは、誠実は対応だと私は思っている。
また、私たちの治療は根底に「信頼」たなければならないと考えている。
患者さんが、この治療に対して少しでも疑惑をもてば、信頼関係に翳りを落とすことになる。患者さんにも私たちにもプラスにはならない。
私たちは「治す」ことに精魂を傾けることは当然のことだ」だからといって、「絶対に…」と気負って意固地になるのはどうかと思う。
そうした場合、一歩退いて病院で診てもらったり、他の治療を体験してもらうことも時には必要なのではなかろうか。他に治療を知ることで、冷静に比較検討ができる。そうすれば、かならず私たちの治療にもどってくるものだ。
私が無理強いせず、自然流を心掛けている一面にはそういった自負がないわけではない。
Tさんが相談に来たのは、奥さんのK子さんが病院に入院し、いろんな検査をしたがいっこうによくならず、「あとは手術しか方法がありません」と宣告されたが、妻はできれば手術をしたくないとのことで、それで相談にきたとのことであった。
「先生が引き受けてくださるのでしたら、先生の指示通りにしますし、毎日でも来いといわれるのならば、私が連れていきます」
Tさんは文字通り必死の面持ちで、そう言うのであった。
その奥さん思いの気持ちにうたれ、私も一所懸命治療させてもらうことを約束したのである。
K子さんが病院を退院し、私の治療所へ再び来た時は、検査を勧めた時よりも悪化しているように見えた。身体はくの字に曲がり、ご主人のTさんにつかまりながら、恐るおそるすり足で治療所に入ってきたのだった。
それからというものは、K子さんはご主人に付き添われて、休診日を除いた毎日、予約した朝の7時30分の10分前に必ず来所し、私は決まって7時半に治療をしたのであった。
半月の間、ご主人のTさんが送り迎えをし、それからはK子さん一人で来るようになったが、一度たりとも予約時間を遅れたり、キャンセルしたことはなかった。
病院でのことや、その後の調整治療の経緯は、K子さん自身の手記に詳しく述べられているので重複は避けるが、私が心うたれたのはFさんご夫婦の「姿勢」であった。
単に「仲がいい」というのではなく、見事なまでの調和といえるほどお二人の「気持ちが通い合っている」のには、ほとほと感心させられた。
ご主人のTさんは、誠実さとやさしさを絵に描いたような人であった。会社では工員教育指導の仕事をされているが、午前中会社を休んで奥さんの送り迎えをするばかりか、私が教えた調整治療の基本的な技で毎日奥さんを調整していたという。
K子さんは、そんなご主人にすっかり頼りきりながらも、随所に気遣いをみせており、私は見ていて、五十前後の年配のFさんご夫妻の一見なにげない感じ奥の奥で強固に結び合っている信頼の強さは、本当に清々しい思いにさせられ、「夫婦とはかくあるべきだ」との典型を見た思いであった。
そうしたご夫妻の熱い思いが、そのまま「治りたい」、「治したい」とのひたむきな気持ちになって、手を携えて明石支部通いが続いたのだった。それは私への絶大な信頼であったのであろうと、実によろこばしい思いだ。
当初、座骨をさわっても、悲鳴をあげて痛がっていたK子さんが、ほどなくしてすっかり楽になったとよろこんだ。だが、この治療には(かならずといっていいほど)反動がくるケースがある。K子さんにもそれがきた。痛みがぶり返したのだ。「楽になった」感覚を知っただけに、よりショックであり、気持ちも動揺するものである。
それでがっかりして、病院へ駆け込む、手術をする例がよくあるようだが、そこが境目であり、我慢のしどころで、峠ともいえるその時期を過ぎるとババッとよくなるものだ。
K子さんも口には出さなかったが、何度か「手術をしたほうがまだしもだ」と思ったのではなかろうか。
そのたびにご主人のTさんに励まされ、くじけず頑張ったのであった。
病院でK子さんを診た医師が、検診で、手術をしないで治った状態を見てびっくりし、「是非MRIを撮ってみせてほしいと何度もたのんだがその都度気が進まないと固辞してきた。
それが今回、「月間自然良能」で症例を発表する際、MRIがあったほうがいいと私がいうと、快く撮りにいってくれたのである。
「皆さんのお役にたてるのであれば…」そんなK子さんのやさしさに、改めて感謝するとともに、このFご夫妻の一途な姿勢が渡した「治療の心理」を形にし示した好例であると、と私は思っている。(※1本誌には本名で掲載されております)
1998年1月3日の朝のことでした。
年末からお正月を過ごしに、毎年我が家に来ている私の姉は、関節リュウマチを患っており、三が日の朝もいつものようにトイレに立つのを、姉の前に立ち、両腕を持って立ち上がらせようとした時でした。
ところが姉は途中まで腰を上げたが、立ち上がれずに力を抜いてしまい、43キロとはいえ両腕で姉をかかえたまま、次に姉が力を入れるまでしばらく中腰でいたとき、私の腰に痛みが走りました。
だが、耐えられぬほどではなく、腰に湿布を貼りワンタッチ式ゴムバンドを二本巻いてお正月の来客の応対をすませました。
そこで時々お世話になっていた、明石市の濱田先生に治療をしていただいたのは、それから一週間後のことでした。しかし、いつもならすぐに腰が楽になるのに、この時はスッキリしないまま帰宅したのです。
はじめは腰だけが痛かったのが、半月もすると座骨が痛く、椅子に座る時は右のお尻を浮かせるようになり、日に日に悪くなっていきました。
一月末、整形外科でレントゲンを撮ったところ、腰椎5番の椎間板ヘルニアと、坐骨神経痛と診断され、その日から腰の牽引薬と湿布をするようにとのことでした。
そしてこのころには、いつもふくらはぎが突っ張って固くなり、なぜか右足のくるぶし疼き、家事も大変つらく、一番に掃除機をかけられなくなり、選択や食事の用意も30分くらい起きては横になり、ほとんど一日横になっているありさまなので、濱田先生のところも一人では行けず、夫に連れて行ってもらいました。
二月の中ごろ、濱田先生から椎間板ヘルニア以外に、痛みの原因がないか、MRIを撮ってみてはと勧められ、三月三日に神戸市内の西神医療センターに二週間入院しました。
二週間にした主な処置は四つありました。
一つは、神経間ブロック注射を二回。すぐに痛みは止まりましたが、十二時間もすると痛みがもどりました。
一つは、神経根注射。腰から足にいく神経に痛み止めを打つので、これも足の痛みはすぐに止まったが、三日もしたら効果がなくなっていました。
一つは、MRIの撮影。幸いにヘルニア以外の異常はありませんでした。
一つは、ベッドでの二十四時間牽引でした、これは痛みが楽になるどころか胸が苦しく、夜も眠れませんでした。
「腰椎5番と骨盤の間の、軟骨が出て神経を圧迫しての痛みで、ブロックも神経根注射でも楽にならないので、あとは手術をしてでているところを削るしかない」
と主治医に言われ、3月14日に痛み止めを飲み、車椅子に乗り西神医療センターを退院し、その足で明石市の濱田先生のところへ、MRIをもって治療にいきました。
その時の私の状態は、横になっていると軽い右足の疼きだけでしたが、立つと右座骨の痛みと、右ふくらはぎのひきつった痛みと、右くるぶしの激痛と、右足の甲のしびれで、ほとんど歩けない状態でしたが、歩く時は体を左に傾けて、なにかにつかまり右足をひきずって歩き、食事は横になったまま、少し状態を起こして食べました。
腰が痛いはずなのに、座骨や足の痛みが強いためか、腰の痛みは我慢できる痛みでした。3月14日から半月間、夫には半日休暇をとってもらい、車の座席を倒し、寝たままなるべく右足を地につけず、這うようにして毎日治療所へ通ったものでした。
しかしその日から仙腸関節の治療(五味勝先生著、「腰痛間違いだらけの治療法」、P110~111参照)のたびに、濱田先生が私の足を持ち腰に先生のかかとが乗るたびにどっと冷や汗が出て、私のうめき声に他の患者さんがびっくりなさってました。
腰を治療していただくのに、腰を触れられると激痛が走るが、他の時は右足のくるぶしの痛みのほうが辛く、その痛みを文字にするのは難しいが、くるぶしを固いものにおもいきりぶつけたことはありませんか?そんな痛さがずっと続いているような痛みです。
同じ病気の方はジョーズに噛まれたような痛さと言っておられました。
夫は3月14日から毎日朝5時に起き、濱田先生に教えていただいた治療(五味雅吉先生著、「椎間板ヘルニアは手術なしで治る」、P138~139 骨盤押し上げの調整法を参照)を私に20~30分し、家事をこなし会社へ。夜は休む前に必ず朝と同じように、骨盤を調整してくれました。ですが、夫にいつまでも送ってもらうわけにもいかず、4月1日からは駅までタクシーか友人の車で行き、電車で東二見まで20分、駅から歩いて2~3分。ようやく着くと、待合室では倒れるように横になっていました。
いつも治療していただいた日は痛みも忘れてよく眠れ、食欲も出て、体のほうは半月前よりずいぶん楽になっているのですが、100あった痛みが80に減っていても、変なもので前の100を覚えていないのです。
半月前は、家のトイレに這いながら行っていたのが、今は壁伝いにに行けるようになっているのに、毎日足が痛い、くるぶしが痛いと言っておりました。
ある日、濱田先生に、「電車の中からたくさん桜が見えるでしょう?」と聞かれてビックリ。
もう4月になっていたのに、見ると電車からだけではなく、治療所の前の小学校の桜が満開なのに、私は下ばかり見て歩いていたので、まったく気がつかなかったのです。
改めて小学校の桜を見上げて、目から鱗が落ちたように感じました。私はいつも痛いところのことばかり考えていたのです。痛みは昨日、一昨日と比べると変わらないように思えますが、一週間、あるいは一ヶ月前とは大きな違いだったのです。
濱田先生が、「痛くても自分の足で治療に来るということが大事なんだよ」と言っておられたこともようやく実感できたのもこのころです。
それからは自分でも気持ちが前向きになり、腰回しも暇さえあれば一日千回でも回したら良いと言われたとおり、とはいきませんが最低1日300回と決め、畳ベットに横になっているときは、濱田先生に教えてもらった、寝たままの腰痛運動(上記P126~127参照)や、足を伸ばし腰を左右に揺する運動を繰り返していました。
濱田先生に歩け歩けとハッパをかけられ少しずつ散歩も始め、自分でも日に日に良くなっているのがわかりました。3月はお風呂につかって出てくるだけなにに痛くて30分くらい、口もきけないありさまだったのが、しばらく横になっただけで痛みが楽になっているのです。
ところが、5月のゴールデンウィークの後、痛みが4月のはじめの痛みにもどり、夫共々がっくりしてしましました。
今思えは好転反応だったのですが、約1ヶ月、本当に治るのだろうかという考えが頭から離れず、二月はじめからもう四ヶ月も夫に家事や、私に治療をして貰っている心苦しさから、こんあ辛いなら手術の方が楽かなぁ、いやここまで頑張ったんだからと、いつも気持ちがふらついていました。
6月はじめになると、今まで電車で座れなかったのが、なんとか座れるようになり、検査入院を退院して約三ヶ月で、やっとトンネルを抜けた思いでした。
それからの良くなり方はまるで階段を二、三段ごとに上がるように良くなり、全くできなかった前屈が膝まで曲がるようになり、一番痛かったくるぶしの痛みも剥ぐように楽になっていきました。
7月になると、ますます調子が良くなり、濱田先生の治療も週4日に減らすことができました。
8月には、夫からの治療は終わりにし、6ヶ月もの長い間の食事作りも交代することができ、献立を考えるのも、作るのも大変だった夫には大喜びされました。
それからは、濱田先生の治療も徐々に少なくなり、11月には週1回になりました。
現在では8~10日に一度(※掲載時。現在は年に1~2回)の治療で、腰痛になる前より元気に過ごしております。
今昨年1年間を振り返って良かったと思うことが3つあります。
末筆になりましたが、濱田先生と職員の皆様に心から感謝を申し上げますとともに自然良能会のますますのご発展をお祈りいたします。
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※初診は原則平日のみ受付となります。
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自然良能会 骨盤調整法 明石支部
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